大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)92号 判決

大阪府泉佐野市大西一丁目九番二〇号

原告

馬場谷幹次

大阪府泉佐野市下瓦屋三丁目一番一九号

被告

泉佐野税務署長

山本一郎

右指定代理人

佐藤明

足立孝和

高田安三

曽根健次

田中猛司

主文

一  本件訴えのうち、延滞税の賦課決定処分の取消を求める部分を却下し、更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分の取消を求める部分を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和六〇年六月二一日付でした、原告の昭和五七年分の所得税についての更正処分ならびに過少申告加算税および延滞税の各賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五七年分の所得税についての確定申告ならびにこれに対する被告の更正処分(以下「本件更正処分」という。)および過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件加算税賦課決定処分」という。)の内容は、別表記載のとおりである。

また、被告は右の各処分と同時に原告に対し、本税につき確定申告期限の翌日である昭和五八年三月一六日からこれを納付する日まで年七・三パーセントの割合による延滞税がかかる旨の決定(以下「本件延滞税賦課決定処分」という。)をした。

2  しかしながら、本件更正処分には、原告の雑損控除を認めず、分離長期譲渡所得を過大に認定した違法があるから、本件加算税および本件延滞税各賦課決定処分も違法である。

3  よって、原告はこれらの各処分(以下「本件各処分」という。)の取消を求める。

二  請求原因に対する被告の認否および主張

1(一)  請求原因1は、本件延滞税賦課決定処分が賦課決定処分であるとの点を除き認める。原告のいう右処分は、被告が本税につき延滞税のかかることを原告に教示した通知であり、賦課決定処分ではない。

(二)  同2のうち、本件更正処分が原告の雑損控除を認めなかったことは認め、その余は争う。

2  原告の昭和五七年分の分離長期譲渡所得は、次のとおりである。

(一) 原告は、別紙物件目録1記載の物件(以下「物件1」という。)および同目録2記載の物件(以下「物件2」という。)を左記の各譲渡時の属する年の一月一日において、いずれも一〇年を超えて所有していた。

(二) 物件1の譲渡による譲渡所得金額は、次のとおりである。

(1) 譲渡価額 一億七二七三万五六〇〇円

次の(イ)および(ロ)の合計額である。

(イ) 原告が昭和五七年四月一四日に物件1のうち一〇〇坪相当分を若松康之に五八〇〇万円で譲渡した譲渡代金

(ロ) 原告が同年七月三日に物件1のうち右一〇〇坪を除いた部分を平野金属工業株式会社に一億一四七三万五六〇〇円で譲渡した譲渡代金

(2) 取得費 八六三万六七八〇円

物件1の取得費は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の四第一項所定の概算取得費控除により、右譲渡価額の五パーセントに相当する八六三万六七八〇円である。

(3) 譲渡費用 五九五万九二六〇円

原告が物件1の譲渡に要した費用は、次の(イ)ないし(ハ)の合計額である。

(イ) 原告が橋本英一に支払った仲介手数料五二一万円

(ロ) 原告が谷義彦に支払った測量費等七三万一〇六〇円

(ハ) 諸費用 一万八二〇〇円

(4) 買換資産の取得価額 八九二〇万九八六一円

措置法三七条一項所定の物件1の譲渡にかかる買換資産の取得価額は、次の(イ)ないし(ハ)の合計額である。

(イ) 原告が昭和五八年五月一二日に別紙物件目録3記載の物件を若林富子から購入した購入代金四六六五万円および原告が右購入に際し支払った購入費用一二五万八四七〇円

(ロ) 原告が昭和五七年五月八日に別紙物件目録4記載の物件を石原保子ほか二名から購入した購入代金三六八一万四七〇〇円および原告が右購入に際し支払った購入費用一三一万六六九一円

(ハ) 原告が昭和五七年に別紙物件目録5記載の物件を新築取得した取得代金三一七万円

(5) 収入金額 八三五二万五七三九円

収入金額は、右(1)から右(4)を控除した八三五二万五七三九円である(措置法三七条一項、同法施行令二五条四項)。

(6) 必要経費 七〇五万七八六七円

心要経費は、右(2)および(3)の合計額を右(5)が右(1)の価額に占める割合で按分した七〇五万七八六七円である。

(7) 譲渡所得金額 七六四六万七八七二円

物件1の譲渡所得金額は、右(5)から右(6)を控除した七六四六万七八七二円である。

(三) 物件2の譲渡による譲渡所得金額は、次のとおりである。

(1) 譲渡価額 一二四万円

原告が昭和五七年六月五日に物件2を児玉藤江に譲渡した譲渡代金である。

(2) 取得費 六万二〇〇〇円

物件2の取得費は、前記(二)(2)と同様、右譲渡価額の五パーセントに相当する六万二〇〇〇円である。

(3) 特別控除額 一〇〇万円

措置法三一条三項によれば、特別控除額は一〇〇万円である。

(4) 譲渡所得金額 一七万八〇〇〇円

物件2の譲渡所得金額は、右(1)から右(2)および(3)の合計額を控除した一七万八〇〇〇円である。

(四) よって、原告の昭和五七年分の分離長期譲渡所得は、右(二)および(三)の合計額である七六六四万五八七二円である。

3  原告は、昭和五七年分の所得税の確定申告にあたり、雑損控除の金額を「不詳億円」として申告した。

ところで、所得税法では、生活用資産など一定の資産について災害または盗難もしくは横領による損失が生じた場合は、当該損失の金額のうち所定の金額について雑損控除をする旨定めている(同法七二条一項)ところ、原告は被告の調査に対して右雑損控除の具体的内容について何ら明らかにせず、かつ「不詳億円」の計数的資料も提出しなかった。また、被告が調査したところ、雑損控除の対象となる事実は認められなかった。

したがって、本件更正処分が原告の昭和五七年分の所得税について雑損控除を行わなかったことは何ら違法ではない。

4  このように、被告のした本件更正処分には何ら違法はなく、さらに原告が同処分を受けたことにつき、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六五条二項所定の「正当な理由」もないから、本件加算税賦課決定処分も何ら違法ではない。

三  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張2について

(一) 同(一)は認める。

(二) 同(二)(1)は認める。同(2)および(3)は否認する。同(4)のうち(ハ)は認め、その余は否認する。同(5)ないし(7)は否認する。

(三) 同(三)は否認する。

(四) 同(四)は争う。

2  被告の主張3のうち、原告が昭和五七年分の所得税の確定申告にあたり、雑損控除の金額を「不詳億円」として申告したことは認め、その余は争う。

3  被告の主張4は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1は、本件延滞税賦課決定処分が賦課決定処分であるとの点を除き、当事者間に争いがない。

二  本件各処分の適否

そこで、本件各処分の適否について判断する。

1  本件更正処分

(一)  原告は、本件更正処分中、分離長期譲渡所得を過大に認定したことおよび雑損控除を認めなかったことのみを争っているので、以下これらについて検討することとする。

(二)  分離長期譲渡所得について

(1) 原告が物件1および2の各譲渡時の属する年の一月一日において、これらの物件を一〇年を超えて所有していたことは、当事者間に争いがない。

(2) 物件1関係

(イ) 被告の主張2(二)(1)(譲渡価額)は、当事者間に争いがない。

(ロ) 措置法三一条の四第一項によると、物件1の取得費は、右(イ)の五パーセントに相当する八六三万六七八〇円である。

(ハ)〈1〉 原本の存在および成立に争いのない乙第五号証ならびに弁論の全趣旨によると、被告の主張2(二)(3)(イ)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈2〉 原本の存在および成立に争いのない乙第六号証によると、被告の主張2(二)(3)(ロ)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈3〉 いずれも原本の存在および成立に争いのない乙第七ないし第九号証によると、被告の主張2(二)(3)(ハ)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈4〉 よって、物件1の譲渡費用は、五九五万九二六〇円である。

(二)〈1〉 いずれも原本の存在および成立に争いのない乙第一〇ないし第一五号証ならびに弁論の全趣旨によると、被告の主張2(二)(4)(イ)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈2〉 いずれも原本の存在および成立に争いのない乙第一六、第一七号証、第一八号証の一、二ならびに第一九ないし第二三号証によると、被告の主張2(二)(4)(ロ)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈3〉 被告の主張2(二)(4)(ハ)は、当事者間に争いがない。

〈4〉 よって、物件1の譲渡にかかる買換資産の取得価額は、八九二〇万九八六一円である。

(ホ) 物件1の収入金額は、右(イ)の価額から右(ニ)の価額を控除した八三五二万五七三九円である(措置法三七条一項、同法施行令二五条四項)。

(ヘ) 物件1の譲渡についての必要経費は、右(ロ)および(ハ)の合計額を右(ホ)の金額が右(イ)の価額に占める割合で按分した七〇五万七八六七円である(措置法施行令遼二五条四項)。

(ト) したがって、物件1の譲渡所得金額は、右(ロ)の価額から右(ヘ)の価額を控除した七六四六万七八七二円である。

(3) 物件2関係

(イ) 成立に争いのない乙第四号証によると、被告の主張2(三)(1)(譲渡価額)が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(ロ) 措置法三一条の四第一項によると、物件2の取得費は、右(イ)の五パーセントに相当する六万二〇〇〇円である。

(ハ) 措置法三一条三項によると、特別控除額は一〇〇万円である。

(ニ) よって、物件2の譲渡所得金額は、右(イ)の価額から右(ロ)および(ハ)の価額を控除した一七万八〇〇〇円である。

(4) したがって、原告の昭和五七年分の分離長期譲渡所得金額は、右(2)および(3)の合計の七六六四万五八七二円であるから、本件処分には、同所得金額を過大に認定した違法はない。

(三)  雑損控除について

(1) 原告が昭和五七年分の所得税の確定申告にあたり、雑損控除の金額を「不詳億円」として申告したことおよび本件更正処分が右雑損控除を認めなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。

(2) ところで、所得税法では、生活用資産など一定の資産について災害または盗難もしくは横領による損失が生じた場合は、当該損失金額のうち所定の金額について雑損控除する旨定めている(同法七二条一項)が、右損失に関連する具体的な事実は納税者たる原告が直接支配する生活現象のもとにおいて生起する事実であり、右事実を立証することは原告において有利かつ容易であるから、右損失に関連する具体的な事実および損失金額は、原告において主張、立証しなければならないと解すべきである。

ところが、原告が雑損として主張する「不詳億円」は到底具体的な損失金額の主張とは解されないばかりか、本件全証拠によっても、原告につきそのような損失が発生したことを認めるに足りる証拠はない。

(3) したがって、本件更正処分が原告の雑損控除を認めなかったことに違法はない。

(四)  よって、本件更正処分は適法である。

2  本件加算税賦課決定処分

右のとおり、本件更正処分には何らの違法は認められないから、原告は昭和五七年分の所得税について七四四八万円の分離長期譲渡所得金額を申告しなければならなかったところ、原告が右の額の確定申告をしなかったため本件加算税賦課決定処分を受けたことは、弁論の全趣旨により明らかである。そして、原告が右の額の確定申告をしなかったことについて、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六五条二項に規定する「正当な理由」の存在を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件加算税賦課決定処分は適法である。

3  本件延滞税賦課決定処分

弁論の全趣旨によると、原告が本件訴えにおいて取消を求める本件延滞税賦課決定処分は、被告が本件更正処分および本件加算税賦課決定処分の処分通知書に合わせて付記した教示であることが認められる。

しかしながら、延滞税は、納付すべき国税(本税のみであり、附帯税を除く。)があり、これを法定納期限または具体的納期限(修正申告をした日等)までに完納しないときに、当然に納付義務が成立し(国税通則法六〇条一項)、これと同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものである(同法一五条三項八号)から、被告がした右教示は、単に延滞税の申告納付義務が存在する旨の観念の通知にすぎず、これをもって行政事件訴訟法三条二項所定の処分と解することはできない。

したがって、原告の本件訴えのうち、本件延滞税賦課決定処分の取消を求める部分は不適法である。

三  結論

以上のとおり、原告の本件訴えのうち本件延滞税賦課決定処分の取消を求める部分は不適法であるからこれを却下し、本件更正処分および本件加算税賦課決定処分の取消を求める請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官 田中敦 裁判官 古財英明)

別紙

物件目録

1 泉佐野市中町二丁目六五八〇番一

畑 九五三平方メートル(ただし、譲渡時の登記簿上の地積)

2 泉佐野市高松東一丁目一七〇七番一

雑種地 一二平方メートル

3 泉南郡田尻町大字嘉祥寺二三五番一

田 一〇三一平方メートル

4 泉佐野市日根野二五三八番

田 九一二平方メートル

5 泉佐野市高松西一丁目二〇六〇番一

物置ほか 六〇・六〇平方メートル(未登記)

別表

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例